以前のコラムでは、「労働時間とは何か」、「休憩時間とは何か」について説明しました。
では、実際に仕事をしているわけではないものの、完全に自由に休んでいるわけでもない「待機時間」は、どのように扱われるのでしょうか。
例えば、「お客さんが来るまで店内で待っている」、「荷物の積込みが始まるまで車内で待っている」、「電話が鳴ったら対応するように言われているが、今のところ電話は鳴っていない」といった時間です。
実際に作業をしていないため、「休憩時間と同じでは?」と思われるかもしれません。
しかし、待機時間は、その状況によっては「労働時間」に当たります。
今回は、待機時間と労働時間の関係について解説します。
1 「待機時間」とは?
「待機時間」という言葉自体について、労働基準法に定義が置かれているわけではありません。
一般に問題となるのは、実際の作業はしていないものの、必要があればすぐに業務に対応しなければならない状態で待っている時間です。
このような時間は「手待時間」と呼ばれることがあります。
店舗で来客を待っている時間や、電話がかかってきた場合に対応するために待っている時間などが典型的です。
実際に接客や電話対応をしていないとしても、その時間を自由に使えるとは限りません。
このような待機時間が労働時間に当たるかどうかは、「何か作業をしていたか」だけではなく、その時間に労働者がどのような状態に置かれていたかによって判断する必要があります。
2 「何もしていない」=「休憩時間」ではない
以前のコラムでも説明したとおり、行政解釈上、休憩時間とは、「単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」をいうとされています(昭和22年9月13日発基第17号)。
つまり、「何もしていない時間」と、「何もしなくてよい時間」は、同じではありません。
仕事が来るまで椅子に座ってスマートフォンを見ていたとしても、仕事が来ればすぐに対応しなければならないのであれば、その時間は必ずしも休憩時間とはいえません。
一方、一定の時間について業務への対応を求められず、労働から離れることが保障されているのであれば、休憩時間と評価されることになります。
待機時間と休憩時間を区別するうえでは、この「労働から解放されているか」という点が重要になります。
3 待機時間は労働時間になる?
労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。
そのため、実際に作業をしていない待機時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される場合には、労働時間に当たります。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、「使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる『手待時間』)」について、労働時間として扱わなければならないとされています。
したがって、待機中に実際の作業が発生したかどうかだけで判断することはできず、重要なのは、「仕事をする必要が生じた場合、すぐに対応しなければならない状態だったか」という点です。
4 どのような待機時間が労働時間になる?
・店舗で来客を待っている時間
飲食店や小売店などで、来客がないため従業員が何もしていなかったとしても、来客があればすぐに接客しなければならないのであれば、その時間は通常、自由な休憩時間とはいえません。
来客がなかった結果、30分間何もすることがなかったとしても、直ちには「30分休憩した」ということにはならないわけです。
・電話を待っている時間
会社から、「この時間は電話番をしてください」
と言われ、電話が鳴れば対応しなければならない場合も同様です。
厚生労働省も、昼休み中に電話や来客対応をする場合について、待機時間等のいわゆる手待時間は休憩には含まれず、電話や来客への対応は勤務時間に含まれるとの考え方を示しています。
・荷物の積込みなどを待っている時間
運送業などでは、配送先や物流施設に到着した後、荷物の積込みや荷下ろしが始まるまで待機することがあります。
この場合も、「待っているだけだから休憩時間」と一律に判断することはできません。
待機中もその場を離れることができず、作業開始の連絡があればすぐに対応しなければならないなど、労働から離れることが保障されていないのであれば、労働時間に当たる可能性があります。
5 待機していれば必ず労働時間になる?
もっとも、「待機時間」と呼ばれる時間がすべて労働時間になるわけではありません。
重要なのは、その時間について使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかどうかです。
例えば、一定時間は業務への対応を求められず、労働者が自由にその場を離れたり、自分のために時間を利用したりすることが保障されているのであれば、休憩時間と評価される場合があります。
したがって、「会社にいたから労働時間」、「待機と呼ばれていたから労働時間」と形式的に判断できるものではありません。
その時間に、
・その場を離れることができたか
・仕事が発生した場合にすぐ対応する義務があったか
・会社から待機する場所を指定されていたか
・実際にどの程度自由に時間を利用することができたか
などの具体的な事情を踏まえて判断する必要があります。
6 待機中にスマートフォンを見たり、テレビを見たりしていたら?
待機時間については、「スマートフォンを見ていたのだから休憩では?」、「テレビを見ていたのだから仕事をしていないのでは?」という疑問が生じることもあります。
しかし、待機中に何をしていたかという一点だけで、労働時間かどうかが決まるわけではありません。
たとえば、電話が鳴ればすぐに対応しなければならない状態で、電話が鳴るまでスマートフォンを見ていたとしても、それによって当然に休憩時間になるわけではありません。
反対に、業務への対応を求められておらず、労働から離れることが保障されている時間にスマートフォンを見ていたのであれば、その時間は休憩時間と評価されることになります。
何をして過ごしていたかだけではなく、「仕事から離れることができる状態だったか」が重要です。
7 待機時間が労働時間になるとどうなる?
待機時間が労働時間に当たる場合には、その時間についても賃金の支払が必要となります。
また、その待機時間を含めた結果、原則として1日8時間、1週40時間という法定労働時間を超える場合には、時間外労働に対する割増賃金が発生することがあります。
例えば、会社が毎日1時間を「休憩時間」として労働時間から控除していたとしても、実際にはその時間中も電話番や来客対応のために待機することを求められていた場合には、その取扱いが適切であったのかが問題になります。
待機時間は、1日単位では短い時間であっても、毎日のように繰り返されれば、長期間では相当な時間になることがあります。
8 まとめ
待機時間について重要なのは、「実際に仕事をしていたか」だけではありません。
実際の作業をしていなくても、仕事が発生すればすぐに対応しなければならず、労働から離れることが保障されていないのであれば、その待機時間は労働時間に当たる可能性があります。
休憩時間は、単に「何もしていない時間」ではなく、「労働から離れることが保障されている時間」です。
会社から「待機時間」「休憩時間」などと呼ばれていたとしても、その名称だけで判断することはできません。
その時間にどのような指示を受けていたのか、仕事が発生した場合に対応する義務があったのか、自由にその時間を利用することができたのかなど、実際の勤務状況を確認することが重要です。


