前回のコラムでは、法定休日に労働した場合には、原則として35%以上の割増賃金が必要となることを説明しました。
今回は、もう一つの割増賃金である「深夜労働」について説明します。
「夜遅くまで働けば残業代が高くなる」というイメージを持っている方もいるかもしれません。
確かに、一定の時間帯に働いた場合には、通常の賃金に加えて深夜労働に対する割増賃金が必要になります。
しかし、「夜に働いたこと」と「時間外労働をしたこと」は別の問題です。
今回は、深夜労働となる時間帯や割増率、時間外労働・休日労働と重なった場合の取扱いについて解説します。
1 「深夜労働」とは?
労働基準法37条では、原則として午後10時から午前5時までの間に労働させた場合、深夜労働に対する割増賃金を支払うことを使用者に義務付けています。
したがって、午後9時から午後10時までと、午後10時から午後11時まででは、同じ1時間の労働であっても、法律上の取扱いが異なることがあります。
午後10時以降の労働については、深夜労働として割増賃金が必要となります。
なお、「夜勤」と呼ばれている勤務のすべてが深夜労働になるわけではありません。
例えば、午後8時から翌午前4時まで勤務した場合、原則として深夜労働となるのは午後10時から翌午前4時までの部分です。
「夜勤」という勤務形態の名称ではなく、実際に午後10時から午前5時までの時間帯に働いたかどうかが重要です。
2 深夜労働の割増率は?
深夜労働については、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
例えば、1時間当たりの通常の賃金が2,000円である労働者が深夜の時間帯に1時間働いた場合には、
2,000円 × 1.25 = 2,500円
となり、原則として1時間につき2,500円以上の賃金を支払う必要があります。
ここで重要なのは、深夜割増は「残業をしたこと」に対する割増ではないという点です。
午後10時から午前5時までの時間帯に労働したこと自体によって発生する割増賃金です。
3 所定労働時間が深夜でも割増賃金は必要?
例えば、夜勤の労働者について、午後10時から翌午前5時までが通常の勤務時間として定められていたとします。
この場合、「もともと夜勤として採用されているのだから、深夜割増は必要ない」のでしょうか。
そうではありません。
深夜割増は、所定労働時間を超えて働いたかどうかとは別に、午後10時から午前5時までの間に労働したことによって発生します。
したがって、午後10時以降の勤務が当初から予定されていた場合であっても、原則として深夜割増の対象となります。
この点が、法定労働時間を超えた場合に問題となる「時間外労働」と大きく異なるところです。
4 残業が午後10時を超えたらどうなる?
では、通常の日勤の労働者が残業し、その残業が午後10時を超えた場合はどうなるでしょうか。
法定時間外労働については、原則として25%以上の時間外割増が必要です。
これに対し、午後10時から午前5時までの労働については、25%以上の深夜割増が必要です。
したがって、法定時間外労働と深夜労働が重なった場合には、両方の割増が必要になります。
例えば、法定時間外労働が午後11時まで続いた場合には、原則として、
午後10時までの法定時間外労働
→ 25%以上の時間外割増
午後10時以降の法定時間外労働
→ 時間外25%以上+深夜25%以上
→ 合計50%以上の割増
となります。
「午後10時を過ぎたから突然残業になる」のではなく、時間外労働と深夜労働という二つの理由による割増が重なるということです。
5 月60時間を超える残業が深夜になったら?
以前のコラムでも説明したとおり、1か月について60時間を超える法定時間外労働については、50%以上の割増率が適用されます。
その時間外労働が午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に行われた場合には、さらに25%以上の深夜割増が加わります。
したがって、
月60時間を超える時間外労働
→ 50%以上
月60時間を超える時間外労働+深夜労働
→ 50%以上+25%以上
→ 75%以上
となります。
長時間の残業が深夜に及んでいる場合には、どの時間についてどの割増率が適用されるのかを区別して計算する必要があります。
6 休日労働が深夜になったら?
前回のコラムで説明したとおり、法定休日に労働した場合には、原則として35%以上の休日割増が必要になります。
そして、その休日労働が午後10時から午前5時までの時間帯に行われた場合には、深夜割増も必要になります。
したがって、
法定休日労働
→ 35%以上
法定休日労働+深夜労働
→ 35%以上+25%以上
→ 60%以上
となります。
例えば、法定休日の午後8時から午後11時まで働いた場合には、
午後8時から午後10時まで
→ 休日労働として35%以上の割増
午後10時から午後11時まで
→ 休日労働35%以上+深夜労働25%以上
となります。
7 深夜手当が給与に含まれている場合は?
会社によっては、給与明細に「深夜手当」などの項目が設けられている場合があります。
また、夜勤を前提とした仕事では、給与の中に深夜割増分が含まれていると説明されることもあります。
このような場合、深夜割増分として支払われている金額が、実際の深夜労働について労働基準法上必要となる金額を満たしていれば、別途同じ金額を二重に支払う必要はありません。
もっとも、「夜勤手当を払っているから深夜割増はすべて支払済み」と当然に判断できるわけではありません。
その手当が何に対して支払われているものなのか、深夜労働に対する割増賃金としていくら支払われているのかなど、賃金規程や労働契約、給与明細などを確認する必要があります。
また、実際の深夜労働に対して必要となる割増賃金額に不足がある場合には、その不足分の支払が問題となります。
8 管理監督者にも深夜割増は必要?
「管理職には残業代が出ない」という話を聞いたことがある方もいるでしょう。
労働基準法41条に定める「監督若しくは管理の地位にある者」、いわゆる管理監督者については、労働時間や休日に関する一部の規定が適用されません。
しかし、管理監督者であっても、深夜労働に関する割増賃金の規定まで適用されなくなるわけではありません。
そのため、労働基準法上の管理監督者に該当する場合であっても、午後10時から午前5時までの間に労働した場合には、原則として深夜割増賃金の支払が必要になります。
なお、「管理職」という肩書が付いていれば当然に労働基準法上の管理監督者になるわけではありません。
管理監督者については、別のコラムで詳しく説明します。
9 まとめ
深夜労働とは、原則として午後10時から午前5時までの間に行われる労働をいいます。
この時間帯に労働した場合には、原則として25%以上の深夜割増賃金が必要です。
深夜割増について重要なのは、時間外労働とは別の制度だという点です。
そのため、所定労働時間内の勤務であっても、午後10時から午前5時までの間に働けば深夜割増が必要となります。
また、
時間外労働+深夜労働 → 50%以上
月60時間超の時間外労働+深夜労働 → 75%以上
法定休日労働+深夜労働 → 60%以上
のように、他の割増賃金と重なる場合もあります。
深夜に勤務している場合には、単に「夜勤手当が支払われているか」だけではなく、実際に午後10時から午前5時までの間に何時間働いたのか、その時間が時間外労働や休日労働にも当たるのか、必要な割増賃金が正しく計算されているのかを確認することが重要です。


